嘘をつく唇に優しいキスを
元々、心機一転したくて美容院に行ったので髪を短くするのに躊躇はなかった。
まぁ、髪を切ったからって私を取り巻く状況は変わらないけど、気持ちは髪の毛と一緒で軽くなった気がする。
久々に髪の毛を短くしたので、この長さに慣れていない。
何気なく髪の毛を触っていたら、なぜか新庄くんがじっと私を見ている。
もしかして、髪型がおかしいとか?
「なんか変?」
「いや、全然変じゃない。前のもよかったけど、今の方がよく似合ってる」
真顔でそんなことを言われ、心臓が大きく跳ねる。
照れくささや嬉しさで浮かれそうになる自分を律した。
冷静になろう。
これはお世辞で、他意はないと言い聞かせる一方で、悔しさを感じていた。
女性の変化に気付き、それを言葉に出して言えるなんてなかなか出来ない。
きっと彼女にも言ってあげてるんだろう。
そう考えただけで、羨ましさで醜い感情がわき出てくる。
それと同時に胸がチクリと痛んだ。
「あー、新庄くんこんなところにいた!」
北見さんがこちらに向かってやってきた。
「北見さん、どうかしたんですか?」
「どうかしたじゃないよ。急に「ちょっと席を外します」って言ったきり帰ってこないんだもん。田所主任が呼んでたよ」
「あー、マジですか?すみません。すぐ戻ります。じゃあな、桜井」
新庄くんは北見さんに謝罪すると、私に声をかけ自分のブースへ走って行った。