嘘をつく唇に優しいキスを
「北見さん、すみません。私がバルーンアートに手間取っていたから新庄くんは手伝ってくれてたんです」
とっさにフォローだけはしておかないと、思った。
「そうだったのね。いきなり席を外すって言うからどうしたのかと思っていたのよ。しかも、なかなか戻ってこないし」
「そちらのブース、大丈夫でしたか?」
「うん、なんとかね。田所主任がひとりテンパってたけど特に問題はなかったわ」
クスクスと思い出し笑いをする。
いったい、田所主任がどんな感じでテンパってたのか気になるところだけど。
「それならよかったです。なんか周囲に迷惑をかけて申し訳ないです」
「気にすることないよ。イベントにトラブルはつきものだし、それをどう対処して成功に導びけるかが問題だしね。今回はいい判断だったと思うよ。実質、バルーンアートをひとりで任されてたでしょ。新庄くん、町田さんが忙しくしてるのを見ていたから、イベント初参加の麻里奈のことが心配だったのかもね。持つべきものは気が利く同期ね」
「確かにそうですね……」
新庄くんには何度も助けられているので、素直に頷いてしまう。
「でしょ!まぁ、困ったときはお互い様だからね。じゃ、私も戻るわ」
北見さんは手を振り、元いたブースへと歩いて行った。
なんなのよ。
新庄くん、手が空いてるって言ってたくせに……。