嘘をつく唇に優しいキスを
「俺の彼女もめちゃくちゃ不器用なんだよ。前にバルーンアートの犬を持ち帰ったことがあるんだけど、詩織が……って俺の彼女ね。詩織がやりたいって言うから教えてあげたら何度も風船を割ってヘコんでるから、話の流れで『うちの会社の子もめちゃくちゃ割ってるから気にすんなよ』って言ったんだ」
町田さん、風船を割ったのは事実だけどめちゃくちゃ割ってるは余計でしょ。
思わずジト目を向けた。
「それで詩織が不器用なのに頑張ってる子にご褒美をあげたいとか言い出して。ご褒美って子供じゃないんだからって言ってもあげるってうるさくて。朝一でクッキーを作ったから持って行けってさ」
「朝一から作ってくださったんですか?」
「あぁ。朝から甘い匂いが部屋中に充満していたせいで朝飯がいつもより食えなかったんだ」
「あー、確かに匂いだけでお腹いっぱいになっちゃいそうですよね」
「だろ!それで俺は怒られたんだよ。『どうしてご飯を残すの?』って。そりゃ、甘い匂いのせいだっての。まぁ、言い返せずに謝り倒したけど」
苦笑いする町田さん。
申し訳ないやらありがたいやら。
「麻里奈ちゃんの分しかないから他の人に見つからないようにな。料理は得意だから間違いなく美味しいぜ」
何気なく惚気ているように聞こえるんだけど。
町田さん、彼女と同棲しているんだ。
「ありがとうございます。詩織さんによろしくお伝えください」