嘘をつく唇に優しいキスを

「了解」

町田さんは優しいから、将来きっといい旦那さんになるんだろうな。
あと、話を聞いて町田さんは彼女さんのお尻に敷かれているんだということが分かった

「あっ、そうだ。例のことは秘密な!」

そう言って“しー”と人差し指を唇にもっていく。
例のこと、とは詩織さんのことを指しているんだと思った。

「もちろんです」

「なにが秘密なんですか?」

突然聞こえてきた声に驚き、身体がビクッとなる。
声のした方に視線を向けると、新庄くんが立っていた。

マズイ!
今の話、聞かれてなかったかな。

思わず町田さんを見ると“大丈夫だ”というように笑顔を向けてくる。
そして、左手を振りながら答えた。

「あー、なんでもないから気にすんな。新庄も早く飯を食えよ」

町田さんはしれっと言い、お弁当の蓋を開けて食べ始めた。
新庄くんは怪訝そうな表情を浮かべながら空いていた席に座る。

この様子だと、多分話は聞かれてないと思う。
そう願いたい。

壁時計を見ると、そろそろ昼休憩後半の人と交代しないといけない時間帯だ。

「それじゃあ、私はお先に失礼します」

「おー、昼からも頑張ろうな」

町田さんが声をかけてくれ、私は食べ終わった弁当箱ともらったクッキーの袋を持ち、立ち上がる。
不機嫌な表情の新庄くんの視線が私に向けられていたけど、それに気付かない振りをして休憩室を後にした。
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