嘘をつく唇に優しいキスを

「あ、うん。ちょっと買い物をしてたから。新庄くんはなにしてるの?」

「俺は」

「湊くん、お待たせ。ここには欲しかったデザート売ってなかったよ」

言葉を遮るようにコンビニから出てきた女の人が新庄くんに声をかけた。

茶髪のふんわりとしたボブに、パッチリとした二重の大きな目が印象的だ。
小柄で華奢な感じがし、女の私でも守ってあげなきゃと思ってしまうような可愛らしい人だった。

直感的にこの人は新庄くんの彼女だと感じた。

絵になる美男美女のツーショットを目の当たりにし、無意識に後ずさる。
不意に新庄くんの彼女が私の方に視線を向けてきた。

「湊くんの知り合い?」

「あぁ、会社の同僚だよ」

「そうなんだ」

その人はニコリと笑顔を浮かべて私を見て、慌てて会釈した。
嫌な汗が背中を伝う。

前に新庄くんのマンションに泊まったことが彼女にバレていたら……と考えただけで生きた心地がしない。
とっさに私はここにいちゃいけないと思った。

「私、電車の時間があるから失礼するね」

「あ、桜井っ」

新庄くんの横をすり抜け足早で駅を目指した。

どうしてこういうタイミングで会ってしまうんだろう。
お似合いの二人の姿を見て胸が張り裂けそうな気持ちになった。

嫉妬、悲しさ、悔しさなどいろんな感情が混ざり合い涙が出てくる。

それを手で拭いながら必死に足を動かした。
< 57 / 74 >

この作品をシェア

pagetop