嘘をつく唇に優しいキスを
もうすぐ駅に着くということろで、足元をよく見ていなかったから、側溝の穴にヒールが引っかかって勢いよく転んでしまった。
痛っ!
絶対今日の占いは最下位だと思う。
じゃないと、この年で転ぶなんてあり得ないでしょ。
痛いやら情けないやら恥ずかしいやらでため息しか出ない。
通行人はいるけど、物珍しそうにチラ見するだけで特に声をかけることもなく素通りしていく。
まぁ、私的にも声をかけられても困るけど。
手のひらは擦り剥け、膝から血が滲んできている。
今日はスカートを穿いていて足は無防備、しかもストッキングは穿いてない生足だったから余計にだ。
ホント最悪。
どうしてこうなるのよ。
新庄くんと彼女のツーショットを見た上に転んでしまうとか、自分の運のなさに呆れてしまう。
バッグからティッシュを取り出して血を拭っていると「大丈夫か?」と気遣う声が耳に届いた。
誰だろうと顔を上げると、思わず目を見開いた。
「し、新庄くん……」
まさか追いかけてくるなんて思ってもいなかったので驚いた。
しかも、こんな惨めな姿を見られてしまい視線を逸らす。
「血が出てるじゃないか」
「これぐらい大丈夫だから」
「大丈夫じゃないだろ。膝からかなり血が出てるぞ」
私の手からティッシュを奪い取ると、膝の血を拭う。