御曹司と恋のかけひき
御曹司と恋のかけひき

1話

穏やかな日差しが心地よい5月。

ここ藤沢商事では、そんな心地よさなどまったく無視したかのような、
張り詰めた緊張が職場を取り囲んでいた。

けたたましく鳴る電話、受け取った男性は流暢な英語で会話している、
後は、ただパソコンのキーボードを打つ音だけが響いていた。

これは、特別な事ではなく、総務課の総合職の日常だった。

総務課は一般職と総合職に分かれており、
コピーやお茶出し、簡単な書類作成などをおこなう一般職と、
外国とのやり取り、重要な書類作成、調査などを行う総合職では、
仕事内容も雰囲気も異なっている。

早瀬万里香は、総合職として就職して1年と少し、
最初は雑談も笑い声もない職場に呑まれていたが、
今では、集中力を必要とされる仕事に、
逆にこの緊張感がありがたいと感じていた。

ポーンと12時を告げる音が鳴る。

職場の人間関係は良好だが、皆仕事重視の為、
食事もばらばらで取るのが普通で、
今も数人がデータを保存しているだけで、大半はキーボードを打つ手が、
止まっていなかった。

英語がずらりと並べられた書類を保存し、少し背伸びをする。

地下一階には食堂もあるが、いつメールが来るか分からない為、
職場で昼食を食べるのが普通になっていた。

椅子から立ち上がり、少し歩いた角にある自販機でコーヒーを買い、
アパートの近くのお気に入りのパン屋で買ったサンドイッチを
食べようと職場に戻った時、普段見かけない人がいた。
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