好きになった子は陰陽師になった。ーさくらの血契2ー【完】
「俺は見鬼ですらないからわかったようなことは言えないけど、じいちゃんの――小埜古人の孫だ。陰陽師が誰も頼れないのは知ってる」
「……どういう意味だ? 頼れないって」
澪は座り直して黎の方へ向きを変えた。
真面目な顔で話し始める。
「陰陽師が背負うのは、人の闇の部分だ。二大大家である月御門も影小路も、見てわかる通り『月』と『影』って、闇を含んだ名前をしている。
陰陽師は依頼主を裏切れない。依頼主の存在すら隠さなければならない。だって闇の請負人の陰陽師を頼るような問題を抱えているんだ。
それこそ昔は政権争いの道具にされていたけど、今の世は違う。困っていることの解決を、陰陽師に頼ってくる。
頼られた人が誰かを頼れるか? 普通なら可能だろう。持ちかけられた相談事も手に負えなくなれば、別の頼り手を探してもいい。
けど、陰陽師はいわば最終兵器だ。陰陽師より先の頼り手はない。――だから、陰陽師は誰も頼れない。
自分の足で立って、総て自分のうちに抱えて、依頼を完遂するしかない。もし頼るとするなら、自分より強い陰陽師くらいだ。
お嬢さんは今、影小路内部では黒の若君に次ぐ位置に見られている。……お前の『頼ってくれ』は、陰陽師の道を選んだお嬢さんには届かない言葉だ」