お願い!嫌にならないで



相手をこれだけ不機嫌にさせておいて、何も無いなんて、そんなことは言えない。



「また何かありましたら、いつでもお問い合わせください。直ぐに駆け付けますので……」



俺が愛想笑いをすると、田中さんは鼻で笑う。



「あなたには、来てもらわなくて結構です。それとも、他に仕事が無いんですか?」



社交辞令を言った笑顔のまま、俺は固まる。

耳を疑った。

奴の斜め後ろに立っていた、先ほど対応してくれた女性も、ぎょっとしていた。



「そもそも俺の方が、よく分かっていますから。それこそ、あなたの方がそれをよく分かっているんじゃないですか?」



そりゃ、この人、前はうちの社員だったのだから。

俺より詳しいに決まっている。

山本くんに以前、聞いたが、この田中さんはうちの会社に4・5年いたらしい。

なかなかのベテランだった、らしい。
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