お願い!嫌にならないで
「えっ、ちょ、なに、何ですか…?」
「え、あ、いえ、別に何も」
「ちょっともう…あんま見られると、照れますから」
本当に勘弁してください、と言いたい、俺は!
周りが明るいために、俺の顔が赤くなっているのがバレているのではないかと、ヒヤヒヤする。
すると、水野さんは顔だけでこっちを向いていたのを、とうとう体ごとこっちに向けた。
待って、俺、何を言われるの!
「な、何ですか?やっぱり何かあるんですか……?」
水野さんは、控え目に頷いた。
「辻さん」
「は、はい」
水野さんの瞳が揺れている。
何故かしら、彼女は泣きそうだった。
よほど、ストーカー男が恐ろしいのだろうか。
彼女の前から消えてもなお、残像だけは現れて、恐怖を忘れさせないその男に、同性の俺が嫌悪感すら覚える。
「水野さん…」
「私、さっきの話題になってから、息苦しかったり、モヤモヤしていたんです。だから、外の空気を吸いに来たのに、ちっともこの不快感が拭えなくて……」
そう言われてから、俺はようやく気がついた。
俺が大きなお世話をやいている、ということに。
一人になれなかったために、気分転換ができずにいる。
今、水野さんの瞳が潤んでいるのは恐怖なんかよりも、迷惑がられている証拠かもしれない。
今更、自信が無くなり、小さな声で謝罪した。
この声量は、我ながら珍しいことだ。
しかし、水野さんは首を静かに左右へと振ると言った。
「辻さんが来てくれて、何故だか…安心しました」
水野さんは自身の片頬を、撫でている。
未だに彼女の言葉を、いまいち信じきれずに、不安な顔をする俺に向かって、水野さんは困ったように微笑む。
「辻さんの傍に居る人は……きっと、幸せですね」
「え?」
「辻さんの隣に居るだけなのに、温かい気持ちになれる気がします」
「え…?」
不思議なことに、俺の口からは「え」という音しか出てこない。
どういうことを言われているのか、全く理解できない。