お願い!嫌にならないで



「辻さん」

「はっ、はい」



呼び掛けられ、どう反応していいか分からず、咄嗟に視線を戻す。

すると、水野さんはまた両手に持つパンを見せながら言う。



「チョココロネとアップルデニッシュ。どっちが良いですか?」

「え、えー、どっちも好きだなぁ。水野さん、先に選んでください」

「私もどっちも好きなんです……」



そう言い、水野さんは顎に手を置いて、悩み始めた。

──何、その仕草、その表情……初めて見ましたよ。

本気で悩んでいる様子でいたので、俺から希望を言ってみることにした。



「えっと、じゃあ、俺、チョココロネが良いです」



俺が答えれば、何故かしら水野さんは、嬉しそうに表情を明るくさせる。

──え、そ、そんな顔されたら、俺も嬉しい!

心の中での呟きが、止まらない。



「はい。どうぞ」

「ありがとうございます」



胸の高鳴りを隠しつつ、チョココロネを受け取った。

今、水野さんと隣り合って座っている。

しかも、お互いの膝が当たってしまいそうな距離。

ドキドキしない訳が見当たらない。
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