お願い!嫌にならないで
しかし、不思議とパンの味は、よく分かっていた。
「うん、旨い!やっぱり疲れてるときは、甘いもの良いですね」
「甘いもの、好きなんですか?」
「いや、実はあんまり……あ、でも!たまに食うと、やっぱり旨いなぁって」
俺が笑って誤魔化してみせると、水野さんは赤くなり、更には目を逸らされる。
少し前なら、不安になっていた。
でも、今はその訳が分かっているから、その反応に悩まされることもない。
前回の食事をしたときの関係から、俺も多少なりとも、成長したことを実感を感じ、嬉しさを噛み締める。
水野さんはそれを、俺が黙り込んでしまったと勘違いしたらしく、慌ててこちらを見た。
その表情は、とても不安そうだった。
「水野さん、どうかしましたか?」
俺が尋ねれば、水野さんは顔を赤くしたままで、おずおずと口を開いた。
「……あの、私、辻さんを変に疲れさせてしまったことが、本当に申し訳なくて……」
「ん?別に、俺は疲れてませんよ」
「本当に?」
「はい!あ、でも、初の一人回りだったので、かなり気は張りましたけど」