お願い!嫌にならないで
「たしかに今日、田中さんに会ってきました。まあ、案の定かなり煙たがられましたけどね」
「すみません、嫌な役回りをさせて」
「いいえ、全く。むしろ田中さんとやり取りするのなら、俺が一番好都合だとは思いませんか?」
「好都合?」
「はい」
水野さんが、不思議そうにする。
「だって、田中さんがこの会社に居るときに、田中さんと面識が無かったのは唯一、俺だけです。お互いに何者かが分かっていない分、動きやすいと思うんです」
「そうでしょうか……」
水野さんに言い返されて、正直なところ、俺も自信があるとは言えなかった。
あんなに、はっきりと拒絶されてしまっては、相当やりにくい。
つい先程までも、途方に暮れていたところじゃないか。
1人きりで奴と対面したのは、まだ今回が一度目だというのに。
本当に自分が情けなくて、嫌になる。