お願い!嫌にならないで
笑ってもらうつもりで、冗談を言ってみたのだが、思った反応とは違った。
それどころか、水野さんは俯いてしまって、顔が見えない。
どうしても、表情を確かめたくて、少し考えた。
そして、お互いの気持ちを確認するということにも、丁度いいと思うことを思い付いた。
「あの、少し触れても、いいですか」
「へっ?!」
思惑通り、水野さんの顔が上がる。
彼女の片手を、アップルデニッシュから剥がす。
そして、その手に俺の手を重ねた。
以前にも、一度だけ咄嗟に、手首を掴んだことがあった。
田中さんが会社の前で、何故か待ち伏せていたときだ。
あのときは、そこまで意識がいかなかったが、とても綺麗な手をしている。
細く、すらっと長い綺麗な指。
びっくりするほど、滑らかな肌。
全く触り慣れない感触に、思わずうっとりしてしまう。
「あ、あの、辻さん……」
水野さんの声に、またハッとした。
ここで話が終わったら、ようやくここまで話を進められたのに、有耶無耶になってしまう。
詰めが甘いのは、いけない。
「水野さん」
「はい……」
「良かったら、付き合ってもらえませんか」
彼女の手を、努めて優しく握った。
大丈夫、視線はしっかりと合っている。
その瞳は、ますます潤んでいく。