お願い!嫌にならないで



思わず、見とれてしまっていると、ゆっくり、優しく手を握り返された。

握り返されたことで、水野さんの体温がより伝わる気がして、心臓が大きく動き出す。

それを鎮めてくれるのは、やはり水野さんの優しい声。



「私で良ければ、是非」



叫びそうになった。

もはや、声を抑えているのが、辛くて仕様がない。

そして、良い返事を聞けたということを実感した途端、今まで張り詰めていた緊張の糸が切れた。

盛大に、息を吐き出す。

そして、片手に持っていた、未だ食べかけのチョココロネを横に置き、両手で水野さんの手を包み込む。



「ありがとうございます!」



水野さんの手を、勢いよく両手で包み込み、小刻みに縦に振った。

さらに、思わず出てしまった大きな声に、驚かせてしまったようだったが、一瞬で微笑みに変わる。

少し照れている水野さんも、また魅力的だった。

その後、二人で残りのパンを食しながら、ゆったりと過ごす。

定時なら、帰社した時点で過ぎていた。

今は、もう業務時間外だ。

何も気にすることはない。

こんなに幸せな時間を、過ごしていいのだろうか。
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