お願い!嫌にならないで
不安な気持ちにさせる、緊張感しか漂わないこの空間から逃げ出したくて、言葉を発した。
「あのー、中谷さん?」
「よくやってくれた! 辻さん!」
もの凄い勢いで、中谷さんが俺の手を、両手でガッシリと握った。
一瞬の出来事に、全く理解が追い付かない。
呆気にとられている間にも、ガッシリ掴まれた俺の手が、上下にブンブンと振られている。
そうして、ようやく手が離されたとき、中谷さんはかなり興奮している様子だった。
「やれば、出来るじゃないですか!」
「あ、ありがとうございます……」
おかしいな。
もっと何と言うか、祝福か、もしくは野次を飛ばされるか、そういったことばかりを考えていた。
意外な反応に対して、どう返せば良いのか、いまいち分からずにいた。
「水野さんってば、いつも辻さんの話になると、悶々としてたんですよ。もちろん、良い意味で」
「良い意味で悶々、って……一体どういう意味なんですか」
言葉を返したとき、俺はハッとした。
今まで中谷さんの行動に驚き、混乱していたためか、今の今になって、中谷さんが満足げに微笑んでいることに気が付いた。
俺も馬鹿だな。
何も心配することなんて、何一つ無かったのに。
ちゃんと祝福されてる、驚くほどに。