お願い!嫌にならないで
「……ちなみに、なんで俺なんですか?」
「は?」
俺が尋ねると、中谷さんはほんの少しだけ怪訝そうに、こちらを見る。
このまま黙っていると、せっかくの穏やかな雰囲気を壊してしまいそうだ。
必死に弁解する。
「いや! あの! さっき、中谷さんが言ってくれたじゃないですか! ほら! 水野さんの相手が俺なら安心だ、って……」
「嫌なんですか……? まさか、辻さん、水野さんには『俺じゃなくても』なんて思ってます?」
「そうは思ってません!」
「じゃあ、何が言いたいんですか?全く意味が分からないのは、私がバカだからなんでしょうか」
「ち、違います! 俺がバカだからです! 頭の中で上手く文章が作れないんです!」
俺の言葉の語尾が、その場に響き渡った。
しばらくすると、中谷さんがプッと吹き出す。
「あははっ、自分でバカって、言ってる」
喋りながら、笑い続けている。
器用だな、半分呆れていた。
「ちょっと、中谷さん……」
ようやく笑いが収まった中谷さんは、改めて俺の方に向き直る。