お願い!嫌にならないで



「あきまで……だから、何を?」

「私、背筋が凍っちゃって! 辻さん居なかったら、私……」

「いや、俺も足が竦んでしまって……てか、俺、初めて見ちゃった」

「私も。私って、見えない方だと思ってたのに」

「いや、だから何を?!」



俺も内心びっくりするほど、山本くんはビビっている。

山本くんには悪いが、思惑通りだ。

険悪だった空気が完全に、いつものおふざけムードに戻った。

有りもしないことで、責められるのは御免だし。

胸を撫で下ろす。

すると、中谷さんが「もう大丈夫」と言った。

一瞬、俺に対して言ったのかと思ったが、違ったようだ。



「早く事務所に戻るよ。ついてきてたら、どうするの!」

「だから、何が?!」



中谷さんが事務所の方向へ向かうと、山本くんはそれに慌ててついていく。

気を利かせてくれて、ありがとう、中谷さん。

一件落着だ。

そして、そのまま廊下には、俺と水野さんの2人だけ取り残された。
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