お願い!嫌にならないで
「山本さんって、幽霊とか苦手なタイプだったんですね」
「らしいですね」
「水野さんも知らなかったんですか」
「はい。山本くんって、あんな風になることもあるんですね。普段、クールなだけに、ちょっと驚いてます」
水野さんが、クスクス笑っている。
俺もつられて、口角が自然と上がる。
平穏な時間は、癒される。
それにしても、先程の山本くんは、もの凄い気迫だった。
それだけ思う気持ちが強いのだということは、よく分かった。
安堵なのか疲労からなのか、非常に微妙な溜め息を吐く。
「俺らも、戻りましょうか」
ずっとここに立って居ても、仕様がない。
水野さんに声を掛けると「はい」と言って、歩き始めた俺の後をついてくる。
直ぐ後ろに、水野さんの存在を感じる。
こういう奥床しいところも、彼女の惹かれるところの1つではある。
──でも。
俺は、不意に立ち止まった。
その不意を突かれた水野さんは、俺の背中に鼻を打つける。
「っ! どうしたんですか。急に立ち止まって……」
微かに赤くなった鼻を手で覆いながら、怒るでもなく、ただ俺を見上げた。
何も言わずに振り返った俺を見て、不思議そうな表情で、言葉を待っている。
「あの……」
「水野さん。隣、歩いてくれたって良いんですよ」
俺にそう言われた水野さんは、突然のことで訳が分からないという風に、俺を見る。
つい先程のことを、思い出したのだ。
中谷さんは、俺の真隣を堂々と歩いていた。
何の遠慮も無しに。
「別に、俺なんかに遠慮しなくても良いんですよ」
──何てったって。
「水野さんは、俺の彼女なんですから」
しっかりと目が合っている。
水野さんの顔が、ブワッと一度に赤く染まった。