お願い!嫌にならないで
「ちょ、ちょっと、誰かに聞こえたら、どうするんですか……」
「そうなんですけど。なんか、寂しくなっちゃって」
やっぱり俺は馬鹿だ。
馬鹿正直に言ってしまう。
水野さんの目が泳ぐ。
恥ずかしさを誤魔化そうとする、その必死さがまた愛らしい。
困らせたいわけじゃないのに、俺の本心がつい出しゃばってしまう。
「いや、やっぱり気にしないでください。水野さんのペースに合わせますので」
そう言って、俺がまた事務所へと歩き始めると、突然、隣に俺の視界に水野さんが入り込んだ。
思わず、彼女を凝視してしまった。
すると、俺の隣に留まる水野さんが、俺を見上げる。
「これなら、淋しくないですか?」
さっきまで、あんなに恥じらっていたのに。
でも、水野さんの恥じらいは、まだ収まっていないようで、声が強張っている。
俺が我が儘を言ってしまったから。
俺のために。
「はい。最高です」
気持ちが嬉しい。
照れてしまって、彼女の方は向けず、真っ直ぐ正面だけを見ていた。
照れたまま、どうしようもなくなった俺の腕を、水野さんがつつく。
思わず、体が跳ねる。
「なっ、何ですか」
「辻さん。今週の日曜日、空いてますか?」
「へ……」
「美味しいもの、食べに行きませんか?」
「もしかして、デートのお誘いですか……?」
「そ、そうなります、かね」
彼女の只でさえ真っ赤な顔は、ますます赤みを帯びていく。
「そ、そうですか……デートですか……そうか」