お願い!嫌にならないで
「またまた! 田中様より弊社へ、ご連絡いただいたじゃありませんか」
「確かに問い合わせたのは、俺だ」
「ほら、やっぱりちゃんと覚えてるじゃありませんか」
「……だが、俺が呼んだわけじゃない。事務員等に頼まれたから、連絡したまでだ。だから、説明を聞くのは、俺じゃなくてもいいだろ」
そう吐き捨てる様に言う田中さんは、俺の目の前で煙草をふかす。
改めて、思う。
勝手な奴!
だから、先程は約束の時間に、敢えて現れなかったとでも言いたいのか?
どんな言い草だ。
いい大人が、聞いて呆れる。
内心は徐々に荒れ始めているが、それを覚られまいと、苦笑いで返す。
そうしていると、不意に田中さんがこちらを向いた。
「そういえば、気になっていたんだが」
「はい、何でしょう?」
「あんた、うちに来るときは、大人しく萎縮してるくせに……」
「え? 別に萎縮なんて──」
「他の業者さんのところでは、呆れるほど馬鹿デカい挨拶をかましてるそうだな」
田中さんの唐突な言葉に、目を見開く。
他のお客さん先を回っている俺の姿を知っている?
まさかストーカー癖で、とうとう俺の跡をつけるまでになったのか?
これには、鳥肌が立つ。
俺が固まってしまっていると、田中さんは押し殺すようにククッと笑った。