お願い!嫌にならないで
「『一体、どこでそんなことを』とでも言いたげだな。そりゃ、小岐須さんじゃあ、教えてくれないか。あの人、放任主義だし」
「何、言って……」
田中さんの口から、部長の名前が出ただけで何故かしら、どきりとする。
「あの人の下でやっていこうと思ったら、全て独学で周りがしていることを、盗むように学んでいかないと無理だな」
「あ……そういえば、田中さんは以前……」
「あんたがおそらく今、座っているに席に居た。本当なら……」
田中さんが語尾を強める。
「そこには、まだ俺が座っているはずだったのに」
今までに奴から、一度も感じたことの無かった気迫が伝わってくる。
しかし、俺にたじろいでいる暇など無い。
また威圧されるのではないかと、身構える。
「俺は社内じゃ除け者だったが、客相手なら気の合う人が多かった」
正直、思いっ切り喧嘩を吹っ掛けられるものだと思っていたのに。
「自覚してくれよ。俺が世話になった人たち相手に、あんたは今、仕事をしてるんだ」
田中さんにそう言われ、はっとする。
威圧しようなどと俺が思うような稚拙な考えなんて、田中さんは持っていなかった。