お願い!嫌にならないで



奴の中にも大事にしたいものや、大事にしたい関係があって。

たとえ原因が自分にあったとは言え、途中で強制的に放棄させられた経験がある。

そして、自分が関わり合いを持てなくなっても、違う人間に担当が変わろうと、その人たちに込める恩と情は何一つ変わらない。

もしかしたら、田中さんという人を掘り下げていけば、もっと温かみのある人間なのかもしれない。

水野さんに関しても、情に厚過ぎたが故の結果なのでは、とも思えてくる。

そう思えば、先程、言われたことに対して、素直に返事が出来る。



「はい」



田中さんには、俺の返事がどういう形で届いたか分からない。

お互いに顔を合わせたままで居ると、穏やかに吹いている風に意識がいった。

その風に、田中さんの溜め息が混じる。



「……あんたに3つのことを教えておいてやる。ただし、これはあんたのためなんかじゃないからな」

「わかります。お客様たちのため、ですよね。ありがとうございます」



俺が答えれば、溜め息の次は舌打ちをしてくる。
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