お願い!嫌にならないで
「まず、情報網は自分で作っていくこと。自分が情報を知らないで、どうやって客と話を弾ませることが出来る?」
「確かに。先程の田中さんが、俺の他所での様子を知っていたのも、お客様を通じて、噂を聞き付けたんですか」
俺の言葉には、敢えて答えようとはしない。
それでも構わない。
奴は話そうとしてくれている。
馴れ合うつもりは毛頭無いが、これを機に何かしらの道を切り拓くことが出来るかもしれない。
「2つ目。知ったか振らないこと。知らないことは、素直に聞き返す。そうすれば、客も気持ち良くなって、余計な情報まで話してくれることが多い」
「なるほど……」
俺のためでは無いとは言え、中身が意外にもしっかりとしている。
感心して油断していれば、田中さんは唐突に尋ねてきた。
「そういえば、まだ居るのか? あいつ」
「あいつ、とは?」
「山本」
「ああ! はい、おりますよ」
俺が愛想よく返事をしてみても、相変わらず田中さんは意欲が無さそうに「ふーん」としか反応しない。
──自分から聞いておいて、何だそれ!
俺の中だけで叫んでいたって、仕様がない。
「うちの山本が、どうかしましたか?」
「あいつは、プライドが高い。よく知ったか振って、初めて教える作業も『ああ! それって、つまりこういうことですよね。ああ、はいはい』とこうだ。あれは客に嫌がられる」