お願い!嫌にならないで



田中さんが憎らしいのは、変わらない。

それでも、何となくの、俺の中だけでの奴の人物像が出来上がっていく。

相手への思いやり方が特殊なだけで、奴だってやっぱり人の子なんだ。

嫌々でもちゃんと、人を変えられるくらいには、面倒見が良い人なんだ。

たとえそれが、俺だけに見えた幻影だったとしても、それはそれで構わない。

傷付くようなことですらない。

気付いたときには、自分の気持ちが、びっくりするほど穏やかになっていた。



「今はそんな様子、全くありませんよ。見たこともありません。きっと、田中さんがちゃんと声掛けをされたからですね」



すると視線が、がっつり合う。

俺が言ったことに、田中さんが動揺している。

水野さんばかりを追いかけていた視線が、ようやく俺にも関心を持って、こちらを向いてくれたようだ。

妙なところから来る達成感に、俺の口角も上がる。

突然、にこやかになる俺に、田中さんは今度は引き気味になる。



「あんたって……やっぱり変な奴だな……」

「いやいや、田中さ──」



俺は言いかけて止める。

危ない、危ない。

余計なことを言いそうになった。

──いやいや、田中さんも変じゃあないですかぁ、なんて!

──いやいや、むしろ田中さんの方がぁっ、なんて!

せっかく、ここまで良い感じに持ってこれたのに、またふり出しに戻ったら面倒臭いこと、この上ない。

田中さんも俺から何かを感じたのか、目を逸らすと大きく咳払いする。

「最後……」

「……最後?」
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