お願い!嫌にならないで
「3つ目。最後は、1日に聞いた話、全ての整理をして、信憑性を自分なりに仕分ける。1日でも置いたら何もかもが、あやふやになってしまう……」
心得のようなものの最後を口にした田中さんは、至って真面目な顔をしていた。
そして、煙草を屋外用のスタンド灰皿に捻りつけ、火を消している。
その所作に目がいく。
俺が見ている間、田中さんは一度も俺を見ることはなかった。
その去り際、奴は吐き捨てるように言う。
「今の俺の話だって、半分以上は嘘かもしれない」
「え」
「自分で判断してみろよ」
田中さんは何だかんだ、俺からパンフレットを奪うように受け取った。
そして、完全に背中を向けて、去っていく。
その後ろ姿は、何故かしら少し寂しげで、何だか可哀想に思えた。
全く関係の無いことだが、奴と対面する予定があると思うと、物凄く憂鬱になるのに。
いざ奴を前にして、今日のようにそこそこうまく話せると、少しだけ嬉しい。
もしかしたら、俺は奴の前ではマゾになってしまうのかもしれない。
自分で自分に寒気がした。