お願い!嫌にならないで



「へ! あ、はい……ど、どうぞ」



そう言って、水野さんは恐る恐る手を差し出した。

そこに、俺の掌も重ねる。



「こうでもしないと水野さん、逃げて行っちゃいそうで」

「そ、そんなことしません!」



慌てる水野さんは、繋いだ手を見つめるように下を向き、小さく呟いた。



「今日を、どれだけ楽しみにしていたか」



不意打ちに思わず、戸惑う。

照れてしまって、口がモゴモゴとして、上手く動いてくれない。

それもまた恥ずかしくて、情けない気持ちになる。

だからと言って、無視したと思われるのはもっと嫌だ。

とりあえず、動作で反応する。

繋いでいた手の指と指を絡める。

いわゆる、恋人繋ぎ。

また水野さんが、大袈裟に動揺している。

それが面白くて、つい吹き出してしまった。



「そんなの、俺だってそうですよ」



水野さんのお陰で、少し落ち着けた。

その後も目的地に到着するまで、彼女が道案内をしてくれる。

どこに連れて行かれるのだろうと楽しみな反面、彼女の横顔に綺麗だなぁ、と見惚れていた。
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