お願い!嫌にならないで
「ここです……!」
先ほどのやり取りから、約15分歩いて到着したのは、オシャレな木目調のカフェ。
段差を2段上がり、入口へ入ると、奥にはカウンター席があって、いい具合に暗く落ち着ける店内だった。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「2人です」
「お煙草は、吸われますか?」
店員からの問い掛けに、水野さんが俺を見上げる。
俺、吸うと思われてるのかな?
無論。
「いえ、吸いません」
「では、こちらの禁煙席へご案内します」
店員に促され、後に続く。
2人掛けの席へ案内され、向かい合って腰を下ろした。
「辻さん、煙草吸わないんですね」
「吸いそうに見えます?」
「うーん、分かりません。山本くんとか、可愛い顔してる子も吸うから、吸う人の基準があまりよく分かりません」
「え! 山本さん、吸うの!」
「みたいですよ。びっくりですよね」
「へぇ……確かに営業車、ヤニ臭かったかも。てっきり先代の臭いが染み付いてるのかと思ってた」
俺の言う先代とは田中さん、ストーカー野郎のことだ。
あの日、訪問していたときにも、屋外でガッツリ吸っていた。
水野さんの前で、俺から奴の名は出さないようにしてるから、言わないけど。
「ね。意外な人が、ってそういうの結構ありますよね」
「本当だ。……水野さんだって、そうですもんね」
「え、私?」
水野さんが意外そうにすると同時に、店員がメニューとお冷やを持ってきて、会話が一度途切れる。