お願い!嫌にならないで



置いていかれたメニューを俺の方へ向けて開きながら、水野さんは途切れた会話を戻そうとする。



「あの、辻さん。今のってどういう……」

「ん? 例えば、意外とグルメで、食べることを楽しめるところとか」

「……もしかして、私が食いしん坊だって、言いたいんですか?」

「違う! 違う!あっ、2回言っちゃった」



大分前に、水野さんが言ってた「人は嘘ついているとき、同じ言葉を2回繰り返す」ということをまた思い出した。

我ながら、律儀だと思う。

だけど、そういう誤解はされたくない。



「水野さんって物静かで、どちらかというと少食なイメージがあるけど、美味しそうに食べたり、こうやって誘ってくれたり……俺も食べるのは大好きなんで! 嬉しいんです」

「褒められているんでしょうか」

「もちろん! あとは、中谷さんも言ってたんですが……」

「あきちゃん、が?」

「はい。水野さんは基本は温厚だけど、その実、格好良いって」

「あきちゃんが、そんなことを?」



俺が頷くと、また頬を違う意味で紅潮させる。

恥ずかしいといった感情や、照れ隠しでなどではなく、次は嬉しいからだろう。

本当に、そういうところもですよ、水野さん。

意外と、表情に出やすくて。

意外と、無邪気で。

水野さんのそういうところを見ていると、俺まで嬉しくなる。

隣に居させてもらえる限り、それを見ていられると思ったら、嬉しくなる。



「さ、そろそろ頼みましょう。水野さんの言う『美味しいもの』ってどれですか? 腹減りましたよー」

「ごめんなさい。話し込んじゃいましたね。えっと……」



水野さんが真剣な顔で、机の上のメニューと睨み合う。



「あ! これです!」



そして、あるものを指差した。
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