お願い!嫌にならないで
「ご馳走様でした」
「美味でございました。はぁ、満腹だぁ。この後、どうしましょうか」
満足気な水野さんに尋ねると、彼女の目が泳ぎ出した。
「ごめんなさい、辻さん……」
「え? 何で謝るんですか」
「これを辻さんと食べて、はしゃぎたい一心で誘ったので、この先を一切考えていませんでした。逆に、辻さんの行きたいところ、ありませんか?」
「なんだ、そんなこと。うん、そうですね……」
腕時計を見ると、まだまだ12時45分。
「あ、映画なんかどうです?」
「良いですね!」
「映画館、久しく行ってなかったから、たまには大きなスクリーンで観たいなぁ」
「私も4ヶ月前に行って、それっきりかも……今、何やってるんでしょうね」
「あー、俺も言ったものの、分かりません。何か良いのがあったら、観る。行き当たりばったりで行きましょうか」
「ふふ、運試しみたいで、面白そうです」
俺の提案に快く乗ってくれたので、早速行こうと会計を済ませて、外へ出る。
俺が支払いしたことを詫びる水野さんに、次は俺の方から手を差し出した。
「じゃあ、また手を繋いでください。これで、全部チャラです」
頷き赤くなる水野さんがそっと、俺の手に触れる。
嬉しくて、心が震える。
叫びたいのを堪えて、映画館へと向かった。