お願い!嫌にならないで
「13時40分からの恋愛ものか、14時15分のコメディ、14時30分まで待ってスポ根の青春もの、もしくは洋画……」
入口の予定表を、水野さんが読み上げる。
正直、俺はどれを観ることになっても、楽しめる。
映画の雰囲気自体が、もう好きだから。
苦手なジャンルも、特に無いし。
だから、ここは水野さんが苦手なもの、それ以外で決めようと思った。
「水野さんは? 何が観たいとかあります?」
「うーん、恋愛ものか……スポ根も気になりますし、洋画も割と好きなんです。どうしよう……」
「あ」
「え?」
俺はふと、水野さんが読み上げていない作品に気付いてしまった。
これは、もしや? と思い、そこを指差し、わざとらしく言ってみる。
「あれ? 13時25分。一番近い時間で、ホラーがありますよ?」
言ってみたが、返事が無い。
水野さんを見ると、こちらを見て、無言で小刻みに左右へ首を振っている。
「……苦手、なんですね?」
「苦手です」
「……ごめんなさい」
「わざと、ですね?」
「…………ごめんなさい」
どうやら、本当に苦手らしい。
彼女の真っ黒な瞳が、本気で主張していた。
からかうのは止めよう。
軽く反省する。
すると、水野さんは先ほどまでのことなど、何も気にしない素振りで言った。
「次は、辻さんの良いのにしてください。さっきは私の気になっていたもの、一緒に食べてくださったので」
「ええ……じゃあ──」