お願い!嫌にならないで
「笑いませんけど……」
「男がこういうの好きで、嫌になりました、か?」
「いえ! でも、男の人って、恋愛ものを観るイメージがなかったので。それに、ほら、辻さんって情熱的だから……」
水野さんは何かをハッと閃いたらしく、言葉を一度止め、また口を開いた。
「情熱的だから……そういうのが好きでも、可笑しくないんですね。失礼しました」
「あはは! ええ、何ですか、それ。俺、そんな情熱的ですか?」
「はい……とても」
はにかみながら、そんなことを言われると、彼女を直視出来なくなる。
いつの間にやら、時間になっていたようで、劇場内が徐々に暗くなっていった。
始まった物語の内容は、ありきたりと云えば、ありきたりだった。
20代の男女の思いっ切り淡い純愛で、お互いにコンプレックスを抱えていて、拗らせては、すれ違ってばかりで、やきもきするのに、切なくて──。
そして、彼女にしつこく付き纏う男も登場して、三角関係になる。
まるで、田中さんのようだな。
『自分で判断してみろよ』
いやいや! せっかくの水野さんとのデートで、ストーカー野郎を思い出したら、駄目だ! しかも、真っ先に思い浮かんだのは、何でそこ?!
邪念を振り払う。
そして、しつこく付き纏う男は、潔く身を引き、クライマックスは沈み行く夕陽をバックに浜辺で、ようやく想いを通じ合わせて、永遠の愛を誓う。
そして、お決まりのキスシーン。
実に、ありきたりだ。
これが、きっと真のありきたりだと言えるだろう。
ありきたりだが、ありきたりなのに、俺は顔をぐしゃぐしゃにして号泣していた。
号泣する中、横から何かを啜る音に気付いて、そちらに目をやる。
水野さんも、号泣していた。
鼻、口にハンカチを当てていた。