お願い!嫌にならないで



劇場を後にしても、未だに水野さんの瞳は潤んでいた。

そんな彼女の隣に居られて、楽しませてもらえる幸福。

とても感性豊かで、面白くて、意外性があって……愛しい。



「映画、良かったですね」



俺が話し掛けると、水野さんはコクコクと頷く。



「あの、水野さん」

「はい……」

「俺たちも海、行きませんか?」

「今から?」

「何か、あの風景観てたら、本物見たくなっちゃったなぁ、なんて……」



突然、無理を言ってしまったかもしれない。

水野さんの反応に、少し戸惑ってしまう。

別に、キスシーンが浜辺だったから、それがどうのこうの、という訳ではなかった。

むしろ、それはたった今、思い出したところだ。

彼女もそのように連想したかどうかは、分からないことだが、彼女の表情で何となく思い出してしまった。

それに、もしかしたら、もう疲れてしまっているかもしれない。

はしゃいでしまった、自分が急に恥ずかしくなった。



「いや! やっぱり、また今度とかでも大丈夫です! またいつか行きましょう! 俺、影響されやすいんですよね……」



必死に言い訳しているところで、ジャケットの裾を掴まれた。



「行きたいです」



ハンバーグの時と同様、先ほどまで潤んでいたのも手伝って、瞳がキラキラと輝いている。

嬉しい。

気を遣ってなどではなく、今日1日、彼女が楽しんでくれている様子が、全て本物だと思うと尚嬉しい。
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