お願い!嫌にならないで
信号に引っ掛かっても、山本くんはハンドルを握ったままで言う。



「辻さんは、水野さんを『良いなぁ』ってちゃんと思った上で、惚れちゃったわけでしょ」

「そ……そうです。もう、まさにそうなんです」

「だったら。アイツとの違いはそこっすよ」



山本くんが男前な表情をつくり、俺に人指し指を指す。

それと同時に、信号も青へと変わった。



「違い……」

「そう。アイツの場合は『あれ?こいつ、俺のこと好きなんじゃね?可愛いし、付き合ってやろうかなー』て勘違いして、次の日から突然、彼氏面してたんすよね」

「うわ……いてぇ……」

「でしょ。でも、辻さんは、さっきから自分でも言ってるじゃないっすか」

「何を…?」

「ほら。『絶対、引かれる』とか、『気持ち悪ぃ』とか。『いてぇ』とか。自分で認めて、わかってる」

「そりゃ、普通ならそう思──

「それが『普通』だと思えない奴も居るんすよ。世の中には」



見た目からして、おそらく彼の方が年下なのに、俺より考え方がちゃんとしている。

感心するような、やっぱり少しだけ悔しいような、俺が情けないような、複雑な気分だ。



「実は辞めていったストーカーの人、俺の直の先輩だったんすよ。だから、水野さんの話もよく聞いてたんです。元々、自信家でしたからね」

「へぇ……」

「で、実際、俺も当時は、水野さん好きでしたから。それで余計に腹が立って……」



俺は思わず『へぇ……』と言った口の形のままで、硬直する。

山本くんはそんな俺を察し、苦笑いを見せた。



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