お願い!嫌にならないで
丁度、目の前に並んでいた男女兼用の白ベルトの、シンプルなデザインのものがあった。
それを手に取り、水野さんに見せる。
「これなんか、どうですか? 履いてみてください」
水野さんは俺に促されるまま、サンダルを試し履きする。
「履き心地とか、大丈夫ですか?」
「あ、はい。とても良いですけど……」
「あ、じゃあ、こっちのブルーなんかも、どうですか? 今日の服装に似合いますよ! それか、ちょっとデザインがある方が良いですかね。この花の付いてる──」
「辻さん、辻さん」
「はい?」
「なんだか、店員さんみたい」
水野さんはクスクスと笑っている。
「辻さんも、すっかり営業さんですね」
「え、あ、お陰様で。水野さんにいろんなこと、教えてもらったので、そのお礼も兼ねて、水野さんに似合うものを、と思ったら夢中になってました。すみません」
「いいえ。私の為に、ありがとうございます。もう、決めました」
「え! どれですか?」
すると、水野さんは一番はじめの白いベルトのサンダルを選び取る。
「花のデザインも可愛いですけど、それだとメンズがありませんよね。せっかくなので、ちゃんとお揃いにしたいです」
本当に嬉しそうにしてくれる。
完璧な笑みは、その相手が俺で良いのだろうか、と不安になるくらいだ。
そうして、2人で同じ物を選び、店を後にした。
手を繋ぐことにも、ようやく慣れ始めた2人の距離は、より近くなっていく。
自然と触れる面積も広がり、尚更愛おしく感じる。
俺に気を許してくれている、という実感が湧き、感動が胸に染み渡っていく。
駄目だ、これ以上は幸福が過ぎるから。