お願い!嫌にならないで
Q12.彼女のことを知る人は居ませんか。
翌日の通常業務は、俺を一気に現実へと引き戻す。
そうして、今日も1日が終わりかけていく。
休み明けの仕事は、どうも体がついて来てくれない。
溜め息を吐きながら、営業車を降りる。
会社の車庫から見上げた空は中途半端に落ちて、しかしながら、淡い青、紫、橙と色鮮やかで一瞬だけ目を奪われた。
そんな色を見せる空は、昨日の浜辺を思い出させる。
それにしても、本当に昨日のデートは、完全に浮かれていた。
俺という奴は、はじめてのデートで手を繋ぐのは、全然良いと思う。
だけど。
頭に、何度も浜辺でのキスシーンが蘇る。
映画のシーンの方ではなく、自分たちの情景が。
「朝はなんとか、挨拶出来たものの。どんな顔して会ったら良いんだよ……」
思い出すだけで、顔が異常に熱を帯びてくる。
その場で唸っていると、車のクラクションが聞こえた。
顔を上げると、中谷さんが戻ってきていた。
「ちょっと。そこ、ドア全開にされたままで居られると、駐車出来ないんですけど」
慌てて、そこを譲る。
中谷さんが車から降りたところで、挨拶をしてさっさと事務所へ戻ってしまおうと思った。
「お邪魔して、すみませんでした! お疲れ様です」
「お疲れ様です。本当ですよ。どうかしたんですか? こんなところで、物思いに耽って」
「い、いえ? 別に? いつも通りです」
「そんな風には、見えませんけど」
「何故、そう思うんです?」