お願い!嫌にならないで
「だって、見るからに様子と、顔が可笑しいので」
この子は毎回、平気で失礼なことを言うから驚かされる。
しかし、それに言い返せないのが、悔しくて仕様がない。
「朝、水野さんへの態度が笑える程、可笑しかったので」
至って、真顔で付け足す中谷さんに、苦笑いで返す。
そうだ、今朝は散々だった。
今朝、自分のデスクに向かうと必然的に顔を合わせる水野さんにかました挨拶が、これだ。
『あ、おっ、あ……ははっ、おはようございます』
完全に失敗していた。
それに対して、水野さんも「おはようございます」と返してくれたのだが。
どう見ても、あれは笑いを堪えていた。
水野さんと俺のやり取りを見ていた中谷さん。
今、まさに俺と同じ光景を浮かべたことだろう。
中谷さんが、にやりと笑う。
やだ、嫌な予感がする。
「ちょっと話せませんか? 辻さん。もうとっくに、業務時間終わってることですし? ね、辻さん」
とりあえず、中谷さんに渋々、付き合うことにする。
我が社の営業部には、タイムカードなど存在しない。
その代わりに、分刻みで行き先を記した日報を毎日、提出する。
だからと言って、時間を無視しても良いということにはならないのだが。