お願い!嫌にならないで



「はいはい。良いですよ。何が聞きたいんですか」

「すごい投げ遣り。何か、あったんですね……?」



中谷さんの表情が、面白そうに口角を上げている。

今まで2度呼び出されたが、その時のような緊張感は、まるで無い。

俺が言いあぐねていても、懲りずに聞いてくるので、諦めて従う。



「あの、デートしました、昨日」

「本当ですか?! 辻さんってば、本当に行動に移すの早いですよね」

「いやいや! 今回は水野さんが、誘ってくれたんです」



中谷さんは元々ぱっちりした目を、更に大きく目を見開いて「へぇ!」と言った。



「水野さん、よっぽど辻さんと合ったんですね」

「え」

「だって、辻さんと打ち解けるの、早かったじゃないですか。水野さんって、とにかく人見知りだから」

「確かに、直ぐ顔赤くなっちゃってますもんね」



うんうんと頷く中谷さんに、内心ほっとする。

このまま普通の世間話で終わるだろうと、期待して俺からも頷き返す。



「さあ! 事務所へ戻りま――」

「まだですよ」



歩き出そうとした俺の進路を、手を広げて塞がれた。


「はじめてのデート、どこまで行ったんですか」

「へ?! そんなことまで聞きますか、普通!」

「そんなことって、気になっただけです」

「ええ……?」



一番、気にしていることを、なかなかデリケートなことを聞いてくるなんて。

それでも、中谷さんは朝の時点で、俺の異変を察知した。

実はもう、何となく勘づいているのかもしれない。



「初デートなのに……」

「なのに?」

「き、キスまでしちゃいました……ごめんなさい」



何を謝ることがあるんだろうか。

恥ずかし過ぎて、両手で顔を覆う。

指の隙間から、恐る恐る中谷さんを見てみる。

案の定だ。

ドン引きしている。

ほら、だから言いたくなかったのに。

中谷さんの肩が僅かに震えている。
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