お願い!嫌にならないで



「そのことでしたら、お届けする物を確かに持って、既に出発しているはずなのですが……一度こちらから、確認の電話を入れてみますので」

『……それが、私の方からも電話させてもらったんですが、繋がらなくて』

「さ、左様でございますか。それは、失礼致しました。やはり一度、こちらからも連絡をしてみますので……」

『はい。すみませんが、お願いします』

「はい。失礼致します」



慌てて受話器を置き、自分の社用携帯で、水野さんに掛けてみる。

呼び出し音が、しばらく鳴り続けるだけだ。

一体、どうしたんだろう。

一度に不安になる。

水野さんは間違っても、お客さんとの約束をすっぽかすような人じゃない。

しかも、会社を出てから1時間も経過している。

駅前の業者だと言っていた。

今、電話のあった花川産業は、会社の最寄り駅の会社だ。

外回りに同伴していたときに、水野さんと一緒に挨拶に行ったため覚えている。

そこだ、間違いない。

この会社から駅前なんて20分かかるか、どうかというところだ。

明らかに、時間がかかり過ぎている。

やはり、電話に出てくれない。

ただならぬ雰囲気の俺を、中谷さんがじっと見ている。



「どうかしたんですか?」

「……水野さんが約束の時間になっても、なかなか来ないって、今、お客さんから電話があって。今、俺からもかけているんですけど、出てくれなくて」

「それは、おかしいですね。水野さん、いつも時間には正確なのに」



中谷さんも水野さんのこととなると、手が止まる。

そして「私からもかけてみますね」と言ってくれた。
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