お願い!嫌にならないで
Q.12,5 助けてください。【水野さん視点】
【水野さん視点】
どうして。
どうして、こんな事になってしまったの。
どうして、私の前に、またこの人が現れたの。
どうして。
この人の、男の人の物理的な力には、どうしてこれ程までに敵わないの。
「……不快です。離してください」
「どうして?」
どうして、こんなに気に障る返しが出来るのか、不思議でならない。
不快だ、と相手が言えば、聞き返す必要も無い。
不快なのだから。
うちの職場を辞めていったはずの、田中さんが私の目の前にて座って居る。
見るからに、下卑た笑みを浮かべて。
私の知らない真新しいカフェまで、無理矢理連れてこられた。
そして、テーブルの上に置かれた私の手は、田中さんに強く握られている。
お客さんのところへお届け物に向かっていて、それで帰ったら、デザートに食べるロールケーキを楽しみにしていたのに。
私、こんなところで何してるんだろう。
約1時間半前――。
この悲劇の発端は、花川産業さんへ徒歩で向かっていた、その途中で起きた。
花川産業さんの建物上に建つ、看板が見えてきた辺りで、この人と出会した。
物陰から突如現れて、私は一瞬で血の気が引いた。
何故、こんなところにまで居るのか、と疑問も浮かんだ。
『まり、また会えたね』
声にならなかった。
引き返してしまいたかったけど、お客さんとの約束が第一。
すり抜けてしまおうと、彼の横を駆け足で通ろうとした。
そこで手首を掴まれてしまい、引き寄せられる。
『無視? 相変わらず、酷いな』
耳元で囁かれ、背筋が凍った。