お願い!嫌にならないで
そして、今に至る。
窓際の席で向かい合ったまま、沈黙の状態が続く。
「いい加減に、離してください。あと、電話するって言って、全然してくれないんですね。堤さんに大迷惑です。私が電話してきます。だから、離して」
すると、田中さんがククッと喉を鳴らした。
「そんなに、逃げたい?」
「ええ。今すぐにでも」
「じゃあ、尚更、離せないなぁ」
ゾワゾワする背筋どころか、胃や肺、心臓など身体の内側からも不快感が押し寄せる。
振りほどこうとしても、びくともしない。
この人と繋がっている自分の手を見て、本気で泣きそう。
デートで始めて辻さんと繋いだ、この手。
――嫌だなぁ……。
気付いたら、テーブルの上に雫が落ちていた。
2粒、3粒……次々に落ちていく。
悔しくて、気持ち悪くて、本当は怖くて仕方がなくて、約束していた堤さんには申し訳無くて……。
いろんな感情が渦巻いて、自分でも訳が分からなくなる。
そして、もう1つ考えたこと。
――辻さんに、今すぐ会いたい。
会社を出る前、せっかく辻さんが気遣って言ってくれたのに。
『いや、あの……俺、一緒に行きましょうか』
あの時、私が素直になって、ついて来てもらっていたら。
きっとこんなことには、なっていなかっただろう。
辻さんにも仕事があるかもしれないと思って、断ってしまったけど、本当は嬉しかった。
心配してくれていることなら、表情から分かっていた。
どうして辻さんは、あんなに優しいんだろう。
とっくに解決している疑問が、また浮かぶ。
告白された日、どうして私にそこまでしてくれるのか、と聞いたら、辻さんは包み隠すこと無く「下心だ」と素直に答えた。
あんなにストレートに自分の本心を言える人に、初めて会った。
感動した。
そんな人も居るんだ、って。
今、この人に似たようなことを聞いたら、何と答えるのだろう。
確かめてみたい。
深呼吸をした。