お願い!嫌にならないで
次の日、水野さんはきちんと出社していた。
彼女の顔を見ると、どうも心が安らぎ、そして、胸が高鳴る。
俺の心臓は、きっと世界で一番に忙しない。
パソコンを盾にして、水野さんを覗き見た。
パソコンと電卓とを操り、資料と照らし合わせている。
そんな彼女は眉間にシワを寄せて、少し悩んでいるようだった。
そんな表情も様になっている、と思ってしまうのだから、俺もよっぽど重症だ。
すると、ふと顔を上げた水野さんと目がバッチリ合う。
「もう少ししたら、出ましょう。辻さんは準備出来てますか?」
「あ、ああ、はい!俺はいつでも出れるようにしておきますんで。焦らなくていいですよ」
焦らなくてもいい、と言う俺の表情と態度の方が、何故か慌てている。
俺のそのような様を、水野さんは可笑しそうに笑いながら「ありがとうございます」と言う。
笑われているにも関わらず、その微笑みがたった今は俺だけに向けられていると思うと、嬉しく思えてついにやけてしまう。
そのとき、俺の肩に誰かが手を置いた。
「朝から顔が弛んでますよ、辻さん」
声が上から降ってきたと思い、見上げる。
声の主は、山本くんだ。
案の定、怪しげな笑みを浮かべている。