お願い!嫌にならないで
優しく、怖がらせないように言えば、水野さんはうつ向いてしまう。
謝ってほしくない。
どうせならば、頼ってもらえると嬉しいのに。
そのやり取りの後、2人して黙ってしまう。
何故かしら、この沈黙は無理に話してはいけない気がした。
そして、扉が開き、ようやく出てきた奴は、相も変わらず不機嫌だ。
「で? 話したいことって何だよ」
「……もう2度と水野さんに、関わらないでもらいたいんですが」
「………………つまり、そういう事か?」
「は?」
俺と水野さんを交互に見ると、がなるように息を吐く。
「今はあんたが、まりと付き合ってるんだな? だから、関わるな、そういう事だろ?」
「今は……?」
不自然な奴の言葉の一部分が、妙に引っ掛かる。
すると、奴の鋭い視線は俺から、水野さんへ向けられた。
透かさず、水野さんの前に立ち、何があってもいいように壁になる。
それでも、奴は俺の向こう側に居る水野さんを睨み付けた。
「本当に、自分勝手な女だ。はじめは俺に気があったくせに、自分が嫌になったら、冷たくあしらうんだな」
「さ、最初っから……そんなつもりありませんっ!」
俺の後ろで、水野さんが咄嗟に声を絞り出す。
店の灯りに照らされる奴の顔は、今までポーカーフェイスで嫌味を言っていた人と同一人物だとは思えないほどに、酷く歪んでいた。
「嘘つけ! 俺と居るとき、いつも顔を赤くしてただろ。あれも演技か? 器用な女だな! 恥をかかせやがって」