お願い!嫌にならないで
第三者から聞いていても、奴の「勘違い野郎」以外の何者でもない。
「俺のこと、好きだったんじゃないのか? 何とか言えよ!」
捲し立てて言うものだから、水野さんは萎縮してしまって、黙り込んでしまっている。
クールなイメージをずっと持っていたせいで、まさかこんなに感情的になる人だとは思っていなかった。
正直、ドン引きしている。
しかし、水野さんはきっと、奴のこの二面性の本性の方を知っていたんだ。
だから、俺が異動したばかりの頃に、奴と再会したとき、あれ程までに顔を青ざめさせていたんだ。
『本当は恐くて』
だから、俺の行きつけの居酒屋へ誘った、その帰り道には、あんな風に無理をしていたんだ。
「俺のこと誑かして、楽しんでたのか。最低だな!」
自分の勝手な思い込みを吐き出し続ける奴に、もともと差していた嫌気に我慢がきかなくなる。
奴の思い込みなんて、どうでもいい。
知りたいとしたら、唯一これだけだ。
「田中さんは……? 田中さんこそ、どうなんですか」
「何?」
「そっちこそ……水野さんのこと、本当に好きなんですか。本当に好きで追っかけてたんですか!」
突然、割り込んだ俺の叫びに、奴の動きが止まる。
そして、鼻で笑った。
「別に……? 好きな訳じゃ、なかった。もともとタイプでもない」
なんだよ、それ。
今まで、散々しつこく追い回しておいて。
手を上げたり、怖い思いをさせておいて。