お願い!嫌にならないで
先ほどまでと威圧的な態度が変わることはないが、声に張りが無くなった。
そんな気がする。
不安定な奴を見ていると、胸の辺りが未だにざわついて、不信感が募っていく。
何とも居心地の悪い空気の中、奴がまた口を開いた。
「はじめは俺だって、ただの同僚だと思っていたさ。でも、徐々に俺たちの間の空気は変わっていった……それも、そっちが先に変えたんだろ? そうだろ?」
そんなことを言って、奴は水野さんを指差す。
水野さんが言葉を返す気配はない。
通りすがりの人達は、俺達を物珍しそうに見ていく。
それでも、そんなことには一切、構う様子もなく続けた。
「違うのか? 違わないだろ? 愛想を振り撒いてきたりして、その気にさせたのは……そっちだろ!」
奴は少し語気を強めたかと思えば、突然、頭をガシガシと掻く。
その仕草は見るからに情緒不安定で、俺を苛つかせた。
そして、奴は唇を噛む。
「俺だって、そんなつもりじゃなかったのに。こんな扱い、あんまりじゃないか……」
あまりにも感情の起伏が凄まじくて、こっちが混乱してくる。
今はもう、うつ向いてしまった奴に、次の言葉が出てこなかった。
苛立ちつつも、奴からいろんな感情が見えてきたから。
好きな訳じゃなかった、と奴がそう言うのはあくまで過去形。
今、現在は歪んだ形だったとしても、水野さんに対して好意があるのだと。
すると、ふとジャケットの裾をチョイチョイと控えめに引っ張られた。
後方の水野さんを振り返る。