お願い!嫌にならないで
「辻さん……私からも話をしたいです。少し、そこを通してもらえますか」
「水野さん……?」
水野さんが思い詰めた表情で、俺に訴える。
「私、田中さんに、ちゃんと伝えます。もう、勘違いされたくないので。それに──」
俺越しに奴を見据えた。
見据える彼女の瞳は、相変わらず強がっていて、どう見ても怯えている。
それなのに、揺らぐ瞳が美しいと思った。
決意をした水野さんは、今の彼女に精一杯の力を込めて、言葉の続きを紡ぐ。
「逃げてばかりじゃ、ダメですよね。勘違いさせるような私の行いのせいで、始まったことなのに」
「水野さんのせいじゃ……」
「いいえ。こればっかりは、私が原因なんです。何でも、なあなあにしてしまうから。だから、ちゃんと、はっきり伝えます。そうしないと、あの人をいつまでも苦しめてしまいそう」
そんなことを言われてしまっては、彼女の意思を無下にすることは出来ない。
「もしかしたら、ああやって弱ってみせるのも、奴の作戦かもしれません。だから、もし何かあったら、俺が奴に飛び掛かって守りますから」
水野さんは眉を少し下げて、笑った。
「よろしくお願いします」
俺が道を開けると、緊張した面持ちで奴の方へと向かっていく。