お願い!嫌にならないで



やっぱり奴は、彼女の話なら聞こうとする。

そりゃ、そうだ。

自分が惹かれている相手なら。

『全て独学で周りがしていることを、盗むように学んでいかないと無理だな』

奴が前に言っていたこと。

俺の為じゃなく、昔に奴が担当していたお得意先の為に、と教えられたこと。

そのことを、こうして間違いなく、ちゃんと自分を見てくれていた、それだけで胸に響く。

だけど、それがまた勘違いしたくなることに繋がっていくのに。

目を伏せる奴は、何かを考えるように黙り込んでいた。



「だから……だから、その、人の見ていないところでは一生懸命なところ、どうか、そこだけは変わらないでいてほしいです。これからも」



水野さんが言い終えると、短い沈黙の後、奴が息を吐いた。

奴は腰に手を当て、唸っている。

俺は万が一のことを思い、水野さんの近くに寄る。

その時、今まで黙っていた奴が、声を発した。

ひどく困ったというような、苦い表情をしている。



「本当……そういうところが、キミは駄目なんだ。キミも、後ろのそいつも。お人好しは、たちが悪いから嫌いだ」



俺が人のことを言える立場では無いが、大の男が静かに、一筋の涙を流しているのを見て、思わず、ぎょっとした。



「まだ、入る余地があるじゃないかって、考えてしまうだろ……遠回しに言ったり、フォローしたりしないでくれ。こんなことなら、はじめから、はっきり拒絶してくれよ。なんで……優しくなんてしたんだよ!」

「そ、れは……」

「その時は、まだ田中さんも仲間だったからだ」



思わず、二度も間に入ってしまった。

このお節介焼き、どうにかならないものか。
< 186 / 239 >

この作品をシェア

pagetop