お願い!嫌にならないで
やっぱり奴は、彼女の話なら聞こうとする。
そりゃ、そうだ。
自分が惹かれている相手なら。
『全て独学で周りがしていることを、盗むように学んでいかないと無理だな』
奴が前に言っていたこと。
俺の為じゃなく、昔に奴が担当していたお得意先の為に、と教えられたこと。
そのことを、こうして間違いなく、ちゃんと自分を見てくれていた、それだけで胸に響く。
だけど、それがまた勘違いしたくなることに繋がっていくのに。
目を伏せる奴は、何かを考えるように黙り込んでいた。
「だから……だから、その、人の見ていないところでは一生懸命なところ、どうか、そこだけは変わらないでいてほしいです。これからも」
水野さんが言い終えると、短い沈黙の後、奴が息を吐いた。
奴は腰に手を当て、唸っている。
俺は万が一のことを思い、水野さんの近くに寄る。
その時、今まで黙っていた奴が、声を発した。
ひどく困ったというような、苦い表情をしている。
「本当……そういうところが、キミは駄目なんだ。キミも、後ろのそいつも。お人好しは、たちが悪いから嫌いだ」
俺が人のことを言える立場では無いが、大の男が静かに、一筋の涙を流しているのを見て、思わず、ぎょっとした。
「まだ、入る余地があるじゃないかって、考えてしまうだろ……遠回しに言ったり、フォローしたりしないでくれ。こんなことなら、はじめから、はっきり拒絶してくれよ。なんで……優しくなんてしたんだよ!」
「そ、れは……」
「その時は、まだ田中さんも仲間だったからだ」
思わず、二度も間に入ってしまった。
このお節介焼き、どうにかならないものか。