お願い!嫌にならないで
「俺も『追い出された』経験があるから、何となく分かるんです」
俺に2人の視線が集まる。
正直、田中さんまで注目してくれるとは思わなかった。
「俺は営業部に異動になるまでは、総務に居ました。でも、出しゃばるわりに、空回ってばっかりで、俺だけ何も成果を出せなくて。それでも、みんな手を差し伸べてくれたりして、優しかったです。でも、とうとう手に負えなくなると、分からないくらい、少しずつ、少しずつ距離が出来ていって……」
そう。総務部の部長も、異動を言い渡す最後の最後まで、気を遣って俺のことを褒めたり、好きだと言ってくれた。
しかし、あくまで気を遣って、突き放してくれたんだ。
俺の居場所は、ここではないのだと。
今では部長なりの配慮だと思った方が、気も楽になった。
それまで、できる限りの手助けは、してもらえていた。
明らかな俺の力不足だった。
そんな悔しさ、せっかく助けてくれた仲間への申し訳なさが、今さら押し寄せてくる。
拳に力が入る。
「仲間だから、例え、大っ嫌いな相手でも、フォローするんですよ。全体のみんなの仕事を回す為に」
「餓鬼臭い……」
「餓鬼臭くない。仕事は1人が手を抜いたり、失敗したら、みんな共倒れだ。1人の人間が駄目なら、ちゃんと助けないといけない。水野さんは俺にも、田中さんにもそうしてくれたはずでしょう」