お願い!嫌にならないで
面倒臭そうに俺を見る。
俺だって、田中さんは気に入らない。
それに、実際に面と向かって、奴には既に言われている。
『あんた、いけ好かないわ』
確かに、そう俺に言ったはずなのに。
「田中さんだって、大っ嫌いで、いけ好かないはずの俺に営業の3つの極意、教えてくれたじゃないですか」
「何度も言わせるな。あれは、あんたの為なんかじゃ──」
「だから、分かっています。お客さんの為なんですよね。だけど、俺も気付かされて、俺自身のものにもなっています。俺は本当に、有り難かったんです」
奴が俺を訝しげに眺める。
どれだけ見つめられようが、嘘偽りが無いのが事実だ。
自信を持って、真っ直ぐ見据える。
すると、奴は少したじろぐ様子を見せた後、大きな咳払いをした。
「本当にあんたって、気持ち悪いな。異常だ……」
「何と言われようが、これが俺です」
30年弱、辻 泰孝として生きてきて、染み付いた性分は、ちょっとやそっとじゃ変えられない。
今まで人から言われてきたのは、純粋、素直でバカっぽい。
純粋だと思われるのは、単に俺が平和主義で、争い事が苦手だから。
素直と言われるのは、嘘が吐くのが下手なだけ。
バカっぽいというのは、正直言って嬉しくはないし。
だけど、それらを全て含めて、出来上がるのが俺だから。
俺を見て、そう思ってくれるのは、その人がちゃんと俺はそういう者なのだと、存在を認めてくれている証だ。
だから、奴に「気持ち悪い」「異常」だ何だと言われれば腹は立つが、気にしない。
「田中さんには、良い印象を持ってもらえなくて、残念です」
俺が苦笑いをして言うと、水野さんがこちらを見ていることに気が付いた。
しかし、俺と目が合うと、直ぐに逸らされてしまう。
何やら、真剣な瞳をしていた。