お願い!嫌にならないで
目を泳がせ始めた奴に、水野さんは更に念を押す。
「お願いします」
奴は口をパクパク動かし、言葉に出来ないようだ。
これ以上、また何かを切り返されては困ると、水野さんは強く言った。
「私は、ちゃんと……自分で幸せになれます」
それはまるで、止めを刺すようだった。
「分かったよ」
「本当に、分かってくれましたか……?」
「ああ……もう金輪際、キミには関わらない。俺が惨めになるだけだ……」
奴はそう言ったくせに、水野さんに1歩近付くと、あの白い紙袋を手渡した。
「これ。返す」
「え」
「キミから奪った物だと思ったら、辛くなる」
「そんな、無責任な……」
「悪かったよ。少しでも、キミと関係があると思うと、泣けてくるから。……頼むよ」
「自分から奪っておいて、頼む、なんて」
「頼む。もうキミの前には、2度と現れないから」
最後に弱々しく言うと、奴は踵を返し、徐々に夜の景色に消えて、姿が分からなくなった。
水野さんは、あんなに怖がっていたはずの相手の消えた先を、しばらく眺めていた。
「水野さん」
俺が改めて声を掛けると、ゆるりと振り返る。
「これで、本当に終わった……?」
「……うん。終わった」
余程、力が抜けてしまったのか、水野さんは初めて俺にタメ口で尋ねる。
俺が返した途端、彼女はハッとしていた。
気にしているようだったが、俺はむしろ新鮮で嬉しかった。
心を開いてくれているのだと、嬉しくなった。